福岡地方裁判所小倉支部 平成10年(ワ)313号 判決 2000年2月16日
山口県美祢市<以下省略>
原告
X1
山口県豊浦郡<以下省略>
原告
X2
右二名訴訟代理人弁護士
本田祐司
東京都中央区<以下省略>
被告
太陽ゼネラル株式会社
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
肥沼太郎
同
三﨑恒夫
主文
一 被告は原告X1に対し、金二一二七万五七三二円及びこれに対する平成一〇年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は原告X2に対し、金二四九万二九一〇円及びこれに対する平成一〇年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告のの負担とする。
五 この判決は、第一項、第二項、第四項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は原告X1に対し、金二七一一万九六六六円及びこれに対する本訴状送達の日(平成一〇年四月一三日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は原告X2に対し、金三一四万六一三八円及びこれに対する本訴状送達の日(平成一〇年四月一三日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、被告の従業員の勧誘によって原告らが先物取引(以下「本件各取引」という)を行ったところ、被告は本件各取引の仕組みや危険性等について十分説明せず、短期間に大量の取引を原告らにさせたことから損害を被ったとして、不法行為による損害賠償を請求し、これに対し、被告は本件各取引の説明を十分行い、原告らは自分の意思と判断で取引を行ったといえるので、不法行為は成立しないなどと主張して争った事案である。
二 争いがない事実
原告X1(以下「原告X1」という)は、昭和三年○月○日生まれで(本件各取引時六九歳)、原告X2(以下「原告X2」という)は、昭和四四年○月○日生まれ(本件各取引時二八歳)で、原告X2は、原告X1の長男であり、原告X1の営む鉄工所(当時親子二人のみ)で高校卒業後から勤務している。被告は、東京工業品取引所等の商品取引所に所属する商品取引員である(争いがない)。
原告X1は、被告北九州支店の社員に勧誘されて被告に委託し、平成九年八月四日から同年一〇月八日にかけて、別紙委託者別先物取引勘定元帳(一)、(二)記載の商品取引(以下、個別に「本件X1取引」という)を行った結果、二四七一万九六六六円の損失を被った。
原告X2は、被告北九州支店の社員に勧誘されて被告に委託し、平成九年七月二四日から同年一〇月六日にかけて、別紙委託者別先物取引勘定元帳(三)、(四)記載の商品取引(以下、個別に「本件X2取引」という)を行った結果、二八六万六一三八円の損失を被った。
三 当事者の主張
(原告らの主張)
被告は、投機取引について知識経験のない原告らに、いきなり電話で勧誘し、商品取引の仕組みや危険性について十分説明をしないで本件各取引を行わせたこと、必ずもうかるとの断定的判断を提供して、実質上一任をとりつけて取引を行わせたこと、習熟期間内(三か月間)の取引枚数原則二〇枚の制限を設けた受託業務管理規則に被告は違反し、右枚数をはるかに超える大量の取引を原告らに積極的に勧めて行わせていたこと、原告らが何度も本件各取引を止める旨の意思表示を行ったにもかかわらず、被告はこれを拒否し続けたことなどが原因で、原告らは本件各取引により約二か月という短期間に前記の多額の損害を被ったものであり、被告の社員の本件各取引勧誘行為は不法行為に該当し、右社員による不法行為は、被告の事業の執行につきなされたものであるから、被告は原告らに対し、損害を賠償する責任がある。
弁護士費用の損害としては、原告X1につき二四〇万円、原告X2につき二八万円が各相当である。
(被告の主張)
1 本件X2取引について
被告の営業社員B(以下「B」という)は、平成九年七月一八日に商品先物取引の勧誘を原告X2に電話で行い、同月二四日に原告X2を訪問し、グラフ、パンフレット等の資料を示しながら、商品先物取引が清算取引で、商品の相場変動を予測して行う投機取引であり、売買注文の方法、差損益の計算方法、取引単位と約定値段、委託手数料や委託証拠金の額などを解説し、原告X2は、商品先物取引の危険性を了知した上、本件X2取引の契約を被告と締結して取引を開始した。その後も、被告は電話または面談により原告X2の注文内容、取引に必要な委託証拠金等の確認を受けて受注し、成立した売買の報告をし、「売買報告書及び売買計算書」を送付して確認を求めており、毎月一回定期的に「残高照合通知書」を送付して原告X2に確認を求めながら本件博取引を継続させたもので、本件X2取引は、原告X2の意思と判断に基づいて行われたもので、不法行為は成立しない。
2 原告X1取引について
平成九年七月二七日、原告X1は、被告北九州支店を訪れ、原告X2取引の商品の値段が上がっていることから自分も興味がある旨被告に話し、翌二八日、原告X2とともに右支店に来店し、本件X1取引の契約を締結することとなった。右契約にあたっては、被告の社員B及びCが前記原告X2に行ったのと同様の解説を改めて原告X1にも行った。その後の被告と原告X1との本件X1取引の継続についても前記本件X2取引と同様、被告はその都度確認、受注、報告をしてきたもので、本件X1取引についても、原告X1の意思と判断に基づいて行われたもので、不法行為は成立しない。
3 新規委託者の習熟期間について
原告らが指摘する習熟期間内の二〇枚の取引枠については、右制限枠自体合理性がないばかりか、商品取引について習熟の必要がないか早く習熟した者に対しては、責任者(本件では被告支店長のD、以下「D」という)の責任と判断において、取引受注数は増やせるのであり、本件各取引においても、右責任者が原告らの適格性を確認した上で受注しているのであるから問題はない。
第三当裁判所の判断
一 本件各取引のような商品先物取引は、取引の値の形成が国際的な政治・経済・社会等の情勢、天候等の自然現象、世界各国にある市場の状況、投資家の思惑等が複雑に影響し、取引形態も、少額の証拠金で差金決済により多額の取引ができる極めて投機性の高いもので、僅かな単価の変動で短期間に膨大な損害を生ずる危険性の高いことなどが指摘でき、一般に行われている売買とは異なった知識と感覚が要求される取引であることなどから、商品取引員が、一般市民に商品先物取引を勧誘する際には、右取引の特殊性や危険性を勧誘者が十分認識し、配慮し、顧客の経歴、職業、学歴、能力、財産、収入、投機取引・先物取引の経験の有無及び程度、取引の意向・目的などを十分調査し、当該取引について顧客の適格性を判断するとともに、取引の仕組みや危険性、手数料や損害額の可能性などを顧客の理解度に合わせて十分説明し、取引中においても、顧客が取引内容を調整し、取引を継続させるか、止めるかの判断が容易にできるよう、計算書や報告書の内容にも配慮していくなどの注意義務が勧誘者には課せられているものといえる。
また、取引未経験者には、膨大な損害を被らせないよう、習熟期間として、三か月程度は少ない取引を勧めていくこと、利益を生ずることが確実であるような誤解をさせるべき断定的判断を提供しないこと(商品取引所法九四条一号)、顧客の指示を受けないような一任売買を行わないこと(同法九四条三号)、顧客が取引を止めたい意向を示したときは、右意向を尊重することなどの注意義務も勧誘者には課せられているものといえる。
そして、勧誘者が右義務に違反して商品先物取引の勧誘を行ったことにより、顧客が損害を被った場合、右勧誘行為は違法性を帯び、不法行為を構成し、損害賠償責任を勧誘者は負うと解するのが相当である。
二 そこで、本件各取引について検討するに、前記争いのない事実、証拠(甲一、二の1、2、三、四、乙一の1ないし3、一の4の1、2、一の5ないし13、一の14の1、2、二の1ないし9、二の10の1ないし3、二の12の1、2、一二の3ないし5の各1、2、三の1ないし4、三の5の1、2、三の6、証人D、証人B、原告X2本人、原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
1 原告らは、本件各取引を開始した平成九年七月ころまで、商品取引の経験及び知識(先物取引という言葉も聞いたことがない)は全くなく、利殖のための株式の売買や信用取引などの経験も全くなかった。原告X2は高校卒業後原告X1が経営する鉄工所で働き、右鉄工所は原告親子二人により細々と経営されていた。
原告X2に資産はなく、原告X1は、親会社のテイエチケー株式会社の株式を一万株頼まれて保有していた他、これまで働いて貯めてきた定期預金が約四〇〇〇万円あった。
2 平成九年七月一八日及び同月二二日、被告の社員Bより原告X1に取引勧誘の電話があり(五分から一〇分程度)、原告X1は取引の勧誘を断っていたものの、同月二三日にBが鉄工所を訪れ、約一時間位取引の勧誘を原告らに行ったところ、金を一キログラム位買ってもよいと原告X1は伝えた。右話の中で、Bは先物取引の話をするとともに、金は今底値だから、買ったら上がり、必ずもうかると言った。当日、「商品先物取引委託のガイド」(乙一の4の1、2)などの資料を原告宅にBは置いてきたものの、何ら中身の説明はしていなかった。
3 同月二四日、Bは上司のEと一緒に原告らを訪ね、取引の勧誘を原告らに行い、「商品先物取引委託のガイド」などの中身を説明した。原告らは、右説明を聞いてもよく分からない旨伝えると、分からなくても、今とにかくやったら必ず上がると言われ、原告らは信用した。原告X2の取引についての理解は、買って売ったらもうかる程度のものであり、原告X1の理解は、金を一枚買えば、家の飾りになるし、先物で一〇枚買えば、何十年か先に困ったときに売って利益にすればいいという程度のものであった。
同日、本件X2取引が被告との間で開始され、金の現物一キログラムの代金一三〇万円、先物取引の金一〇枚分の取引代金六〇万円計一九〇万円を被告は原告らから受け取った。
その際、先物取引の危険性を了知し、委託者の判断と責任で取引を行う旨の約諾書、受託契約準則、危険開示告知書、委託ガイドの受領確認証(乙一の1、2)に、被告社員から形式だから書いてくれと言われ、原告X1が原告X2の名を代筆して捺印した。
4 同月二八日、被告会社がどのような会社か見るために、原告らは二人で被告北九州支店を訪れたところ、D支店長が応対し、Dから再度取引の勧誘を受け、取引の仕組みが分からない旨原告らは告げると、そういうことは分からなくてもいいから、とにかく任せてくれれば絶対に損をさせないからと言われ、本件X1取引も開始された。
5 以後、Dから原告らに毎日のように頻繁に電話がかかってくるようになり「今、売ったらもうかるから、売って買い」などと言われ、本件各取引の金、銀、大豆、コーンなどの先物取引が頻繁になされていき、原告らは、取引の内容が分からなかったため、被告の言われるまま任せるしかなく取引が継続されていった。被告は、その都度、取引の内容を記載した「残高照合通知書」(乙二の12の3の1など)を原告らに渡し、言われるまま原告らは同書面に相違ない旨の署名捺印をしたものの、同書面に書かれてある内容は「現在の建玉内訳」という欄に商品名「東工品、白金」、「限月」の欄に月日、「場節」の欄に「ザラ」、「建玉」の欄に売り買いの数字、「値洗」の欄に「場節」、「約定値段」、「値洗差金」、「証拠金必要額」の欄に金額が記載されているなど、専門用語と数字が羅列され、原告らは右用語の内容も全く理解できず、具体的取引の内容は分からなかった。
6 商品先物取引は極めて投機性の高い難解な取引であることから、新規委託者保護のための規則の制定とその遵守が各商品取引員に義務付けられ、被告も受託業務管理規則(乙一の13)を定め、先物取引経験のない新規委託者には三か月間の習熟期間を設け、建玉枚数を二〇枚に制限し、それを超える場合には責任者が取引の適否を審査する旨定められていた。
ところが、被告の社員らは本件X2取引において、取引開始から二日後の平成九年七月二五日に二〇枚を超える四一枚の取引を原告X2に勧め、これを建てさせ、その後習熟期間中に常時四〇枚、合計四七八枚もの大量の建玉をさせ、本件X1取引では、取引開始日から一〇〇枚もの取引を勧めて、これを建てさせ、その後習熟期間中に常時一〇〇枚を超える取引をさせ、合計二五一五枚もの大量の建玉をさせた。
Dは、平成九年七月二三日ころ、原告X1が株を保有しているというBの報告(Bが資産欄に報告していたのは、推測で書き、原告X1から聞いた情報を原告X2が資産、有価証券、預貯金があるなどと記載して報告した)のみで、原告らの適格審査を行い(乙一の12、二の9)、「株の利用もあり、資力、理解力共に有しますので、建玉を許可します」などと、原告らの取引適格性が審査された。その後の原告らの建玉件数を許可したのはDであり(乙一の4の1、2、二の10の1ないし3)、Dが自分で申請書を書いて、自ら決裁した。
また、被告の社員は、本件各取引において、一般投資家にとって根拠のある相場観を持つことが困難で、多数の枚数を行うとリスクが大きくなる(甲四)というストラドル取引まで習熟期間中の原告らにさせていた。
7 本件各取引が右のような状態で継続する内、支店長のDは「今はものすごくいいようになっています。一〇〇〇万円単位でお金に換えておきますから、一〇日過ぎまでには倍ぐらいになってお返ししますから」などと原告X1に電話で話すものの、原告らに送られてくる「残高照合通知書」をみると、ほとんど原告らは理解できないまでも、どうも取引状況がおかしいと思い、原告らは平成九年八月末ころから、本件各取引を一切止める旨頻繁に被告に申し入れた。
ところが、Dは「もうちょっと待ったら上がる」などと言って取引を止めさせず、次々に原告らの意図に反して取引が継続され、平成九年一〇月六日、原告らはどうにもならなくなり、警察署(小倉北署)に相談に行った。
警察署では、自ら対処することはできないということで、北九州消費者センターを紹介され、右消費者センターから被告に連絡し、取引を止めて決済するという約束がなされたものの、原告らが被告の支店を訪れると、消費者センターに話していた金額よりはるかに少ない金額しか返金できないなどと被告は主張したため、消費者センターから、本件原告ら訴訟代理人弁護士事務所を紹介され、原告らは相談に行った。そこで、右弁護士がとにかく取引を止めて決済するように電話で強く被告に申し入れをするも、被告は応ぜず、内容証明郵便を被告宛に出す(甲二の1)に至って、ようやく被告は本件各取引を止めさせ、決済したものの、約二か月間の取引で、原告X1は二四七一万九六六六円、原告X2は二八六万六一三八円もの損害を被った。一方、本件各取引で被告が得た手数料収入は、合計二〇六一万三九〇〇円にも及んだ。
三1 以上の事実に照らすと、被告は、本件各取引を勧誘するに際し、「商品先物取引委託のガイド」などに基づき、取引の仕組みや危険性を一応原告らに説明し、右書類なども原告らに渡し、原告らから約諾書などもとっていることが認められるものの、原告らはその仕組みや危険性をほとんど理解しておらず(原告らの経歴、投機経験の有無、勧誘状況などからすると理解できなかったのは無理はない)、分からない旨告げても、被告の従業員は、分からなくてもいいから、今やれば、必ずもうかるなどと言って勧誘していることが認められ、説明義務違反、断定的判断の提供があったものと認められる。
2 また、原告らは、先物取引の経験はおろか、株式などの投機取引なども行ったことがないこと(原告X1が保有していた株は、親会社から頼まれて保有していたにすぎない)などから、被告の受託業務管理規則(乙一の13)により、三か月間の習熟期間中は、被告は建玉枚数を二〇枚に制限して取引させなければならなかったところ、本件各取引では、被告は、当初から右制限枠を大きく超える取引を原告らに行わせていたばかりか、リスクが大きくなる可能性のある特殊なストラドル取引なども行わせていたもので、適格性について十分調査を行わず、不適格者に対する過当な取引をさせた違法が被告に認められる。
右の点に関して、被告は、右習熟期間内の制限枠自体合理性がないばかりか、商品取引について習熟の必要がないか早く習熟したは者に対しては、責任者の責任と判断において、取引受注数は増やせるのであり、本件各取引においても、右責任者(D支店長)が原告らの適格性を確認した上で受注しているのであるから問題はない旨主張する。
しかしながら、右習熟期間及び新規取引者への取引制限枠は、前述のとおり、商品先物取引の複雑性、その投機性や危険性の高さなどを考慮して、各商品取引員に顧客を保護する規則の制定とその遵守が義務付けられ、右趣旨のもとに被告においても「受託業務管理規則」を制定して、規制しているものと認められ、合理性がないなどとは到底いえない。原告らは、当時細々と親子二人で鉄工所を経営しており、原告X1は六九歳と高齢者で、原告X2は高校卒業後右鉄工所でしか働いたこともなく、これまで原告らは、商品先物取引の経験はおろか、言葉も聞いたこともなく、その他株式の信用取引・投機取引なども一切行ったことがないこと、原告X2には資産はなく、原告X1には預金があったものの、右預金は同人が六九歳になるまで必死に働いて貯めてきた預金であることが推認されること、現実に説明を聞いても分からない旨原告らは訴えていたことなどから、原告らが習熟の必要がないか早く習熟したは者に該当しないことは明らかである。そればかりか、被告の支店長Dは、原告X1が株を保有していて、資産も推測で三〇〇〇万円位あるという程度の報告を社員としての経験の浅いBから受けたのみで、原告らの適格審査を行い(乙一の12、二の9、右審査では、原告X2と原告X1の資産、株式なども混同されている)、「株の利用もあり、資力、理解力共に有しますので、建玉を許可します」などと安易に原告らの取引適格性を認め、その後も自分で申請書を書いて、自ら決裁して許可していることなどから、責任者が適格性を確認した上で受注しているのであるから問題はないなどとも到底いえず、被告の右主張は採用できない。
3 次に前記認定事実からすると、本件各取引においては、取引の仕組みが分からない旨原告らが告げると、そういうことは分からなくてもいいから、とにかく任せてくれれば絶対に損をさせないからと言われて、原告らは、取引の内容がよく分からないまま被告に任せるしかなく取引が継続されていったこと、被告の支店長のDからは頻繁に原告らに電話がかかってきたものの、「今、売ったらもうかるから、売って買い」などと言われ、本件各取引の金、銀、大豆、コーンなどの先物取引が頻繁になされていったこと、その都度、取引の内容を記載した「残高照合通知書」を被告から渡されていたものの、右通知書には先物取引の専門用語と金額が羅列してあり、ほとんど原告らは理解できず、被告が理解させようと働きかけたこともなかったこと、支店長のDは「今はものすごくいいようになっています。一〇〇〇万円単位でお金に換えておきますから、一〇日過ぎまでには倍ぐらいになってお返ししますから」などと原告らに伝えていたこと、原告らは平成九年八月末ころから本件各取引を一切止める旨頻繁に被告に申し入れていたのにもかかわらず、止めさせなかったことなどが認められ、右事実に照らすと、被告には、断定的判断を示しながら実質的な一任売買を行っていたという違法性が認められ、顧客が取引内容を調整し、取引を継続させるか、止めるかの判断が容易にできるよう、計算書や報告書の内容にも配慮していくなどの注意義務、顧客が取引を止めたい意向を示したときは、右意向を尊重することなどの義務にも違反しているものと認められる。
4 以上のとおり、被告には商品取引員として遵守すべき多くの義務に違反し、その結果、原告らが短期間に膨大な損害を被っていることが認められるため、被告の従業員による一連の本件各取引勧誘行為は違法性を帯び、右従業員が被告の事業の執行に付き右行為を行ったことは明らかであるから、被告は不法行為責任を負い(民法七一五条一項)、原告らの被った損害を賠償すべき義務を負うと解するのが相当である。そして、本件では、被告が取引を止めさせず、原告らがどうにもならなくなり、警察や消費者センター、弁護士事務所まで相談に行かなければならなくなってる事情にかんがみると、その違法性も高いといわざるをえない。
5 過失相殺
ところで、商品先物取引が極めて投機性の高い危険な取引であることは一般に知られているところであるにもかかわらず、社会人として独立している原告らは、警戒もせずに、安易に被告の話を信用してしまっていること、被告は、原告らに先物取引の仕組みや危険性について一応の説明は行い、「商品先物取引委託のガイド」などの資料も原告らに渡して、約諾書などもとった上で取引を行っていることなどの事実が認められ、右事実にかんがみると、原告らにも損害の発生について二割の過失責任を認めるのが相当であり、原告らの各損害額から二割の過失相殺を行うと、原告X1の損害額は一九七七万五七三二円(二四七一万九六六六円×〇・八、円未満を切り捨てて計算)となり、原告X2の損害額は二二九万二九一〇円(二八六万六一三八円×〇・八、円未満を切り捨てて計算)となる。
6 弁護士費用
本件訴訟の認容額、審理状況等を考慮すると、被告に負担させるべき弁護士費用は、原告X1につき、一五〇万円、原告X2につき二〇万円が相当と認められる。
そうすると、前記5の各損害額に各弁護士費用を加えると、被告が損害賠償責任を負うべき損害額は、原告X1に対して、二一二七万五七三二円、原告X2に対して、二四九万二九一〇円、及びこれらに対する本訴状送達日(平成一〇年四月一三日)から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金であると認めるのが相当である。
よって、右の限度で本件原告らの請求は理由があるから、主文のとおり判決する。
(裁判官 中嶋功)
<以下省略>